天法使い資格試験

 扉を開けば、今朝見たばかりの、しかしどこか懐かしい草原が現れた。
「榛名、私だ!」
「山城さん、お邪魔します」
「お、お邪魔します」
 岩見は迷わず山城の家へと歩いていく。長門がその後を追ったので、私もついていくことにした。
「あらあら、こんにちは、瑠璃さんに燈さん。それから降谷さんも、こんにちは」
「元気そうでなによりだ」
「お久しぶりです、山城さん」
「こ、こんにちは」
 三者三様の挨拶をする。
 まさかこんなすぐに再開するとは思ってもみなかったので、少し気恥ずかしい。
「早速だが、少し庭先を借りてもいいかね」
「もちろんですわ。ところで、今日は何をなさるんですの?」
「降谷がどんな天法を使うのか試してみたくてな」
「まあ、私も降谷さんが天法を使うところを見てみたいですわ」
「ようし、許可も下りたことだ。行くぞ、降谷よ」
「は、はい!」
「私は山城さんと話があるので、ここに残ります」
 そう言って長門は家に入って行った。
 岩見と二人きりとは。大丈夫だろうか。
「習うより慣れろ、とはよく言ったものだが、こと天法についてはそれが正しい。言葉では上手く説明できないからな。という訳だ。くらえ!」
 岩見が腰から杖を引き抜き、空に向かってくるくると円を描くと、上空に光る鳥のようなものが現れた。
 その鳥がこちらに向かって猛スピードで飛んでくる。
 どうする。
 どうすればいい。
 これに当たったらどうなってしまうんだ。
 どうにかしなければ。
 考えろ。
 考えろ。
 そうだ、魔法といえば杖じゃないか。
 杖だ。杖をイメージしろ。
 なんでもありなこの世界だ、何もないところから杖を出すことだって、きっとできるはずだ。
 棒状で、不思議な力が使える、そんな杖を掴むんだ!
 目を瞑ってイメージする。
 鳥を、どうする、落とすか。それがいい。
「落ちろ!」
 無我夢中で腕を振り下ろせば、ぶん、と風を切る音がした。
 恐る恐る目を開ける。
 そこには、横たわった光の鳥があった。
「やはり見込み通りだったな。それじゃあ、これはどうする」
 そう言うなり、今度は地面に向かって杖を振った。すると、今度は光る犬のようなものが現れ、こちらに向かってくる。
 元から地面に居たんじゃ落とせない。
 ——いや、別の意味でヽヽヽヽヽ落とすこともできるんじゃないか?
 さっきと同じように、落ちるイメージを描きながら腕を振り下ろす。
 犬は伏せのポーズをとった。尻尾を振って、心なしか機嫌が良さそうに見える。
 岩見は犬に近づき、頭をわしわしと撫でた。
「ふふふ、なるほどなるほど、そうなるのか。君は面白いねえ、降谷君」
「ど、どうも」
 褒められたのか笑われたのか、よく分からない。
「試験は以上だ。もちろん結果は合格だ! その杖、大切にしたまえよ」
 改めて自分の手に収まった杖を見る。
 空色のステッキに白いつたのようなものが巻き付いている。そしてステッキの先端には、羽を模しているのだろうか、白い三角形が浮いていた。どういう原理で浮いているのだろう。魔力、いや天力か。
「ここからは私が案内しますね。岩見さんは帰ってください」
「そんな薄情なことを言わないで——」
「帰ってください」
 岩見と長門はしばらく睨み合っていたが、そのうち岩見が根負けして、すごすごと帰っていった。