瞳
僕は昔から人の顔がよく分からなかった。区別はつく。でも、それだけだった。他の人が言うような美醜は分からなかった。他の人が言うような魅力も分からなかった。
それでも、人の顔の中で唯一、瞳が好きだった。瞳だけは美しかった。きらきら輝く宝石だった。僕は僕の顔を好いても嫌ってもいないけれども、瞳だけはいつまでも見ていられた。それくらい好きだった。
いつからだろう。あらゆるものに魅力を感じなくなったのは。いつの間にか、好きだった瞳は、怖い視線そのものに感じられるようになった。
子どもの頃は、クレーンゲームのあたりのおもちゃより、はずれの宝石を模した物のほうが魅力的に見えた。たかだか数十円で買えるようなビー玉やビーズも、僕にとっては宝物だった。
「それちょうだい」
宝物のひとつだったキラキラのシールを強請られた。それでも、交換にたくさんシールをあげると言うから、交換してあげた。本当は嫌だった。僕にとっては、輝かないものに価値はなかった。
そうだ。そうだった。僕は輝くものが好きだ。誰かにいらないものだと思われても、価値の低いものだと思われても、僕にとって輝くものならそれは全て宝物なんだ。
世界が曇っていたのではない。きっと、僕の眼鏡が曇っていたから、輝きが僕の瞳に届かなくなっていただけだ。これからはちゃんと毎日拭かなくっちゃね。